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八本脚の馬スレイプニルの誕生を知りたいのに、話はなぜか城壁を造る約束から始まる。馬の話じゃなかったの? と思ったら、その工事を手伝うもう一頭の馬に注目してみてください。
神々は、職人が一冬で城壁を完成させれば報酬を渡すと約束します。ロキの助言で職人の馬を使うことも認めたところ、工事がどんどん進んでしまう。期限までに完成されては困る神々がロキを追い詰め、馬を工事から引き離す出来事につながるんです。
今回は、スノッリの『若いエッダ』をラスムス・B・アンダーソンが英訳した、1901年刊行版の公開本文、その43節を読みます。八本の脚だけでなく、「誰の助言が、どの約束を動かしたか」からたどってみましょう。
城壁の報酬に、太陽と月まで?
アンダーソン英訳の公開本文では、ある職人が神々の町へ現れ、巨人たちを防げるような城壁を造ると申し出ます。その報酬に求めるのは、女神フレイヤと、太陽と月。
壁を造ってもらう代わりに、空の明かりまで渡すことになる。金貨を何枚、という取引とは、もう規模が違いますね。
神々が承知した条件は、一冬で完成させること。夏の最初の日に少しでも未完成の部分があれば、約束は無効になります。さらに、人の助けは借りないという条件も付いています。
この段階では、難しい期限と条件で、報酬を渡す事態を避けられそうに見えます。ただし、そこへ一つの追加条件が入るんです。
人は駄目でも、馬はいい? ロキが通した助っ人
職人は、自分の馬スヴァジルファリの手助けを認めてほしいと頼みます。ロキの助言で、それが許されます。
そして工事が始まると、馬は夜に大きな石を運びます。神々が驚くほどの働きで、城壁は高く、頑丈にできあがっていく。
ここで馬は、単なる移動手段ではありません。職人が期限に間に合わせるための、大きな働き手なんですね。
人の手助けは禁止したのに、許された馬が工事を大きく進める。この条件と実際の進み方のずれを読むと、後でロキへ責任が向く理由もつながります。
あと三日、残るのは門。そこで馬が工事を離れる
夏まで三日というところで、残っているのは門だけになります。神々は、こんな約束を勧めたのは誰だ、と話し合い、ロキに工事を完成させない方法を求めます。できなければ命を奪うと脅し、ロキは報酬を失わせると誓います。
ここで最初の条件を思い出してみてください。未完成の箇所が残れば、報酬はもらえない。ロキに求められているのは、完成までの流れを止めることです。
その夜、森から雌馬が現れ、スヴァジルファリが追いかけます。職人も馬を追い、夜を使ってしまい、工事はいつもどおりには進みません。
その後、完成できないと知った職人は巨人の姿を現します。神々は誓いを守らずトールを呼び、職人はトールの槌で殺されます。期限の条件だけで穏やかに話が終わるわけではないんです。
英訳はその後、ロキがスヴァジルファリと走り回った結果、のちに灰色で八本脚の子馬を産んだ、と結びます。ここでようやく、最初に知りたかったスレイプニルの誕生へ戻ってきます。
城壁の約束、認められた馬の助け、馬が仕事を離れる夜。その順番が、一頭の馬の由来につながっていたんですね。
「八本脚の馬」から、約束の結末へ読み返そう
この話は、最後の珍しい姿だけを取り出すこともできます。でも、その前には神々自身が引き受けた約束があり、完成が近づくとロキを脅し、最後には誓いを破る展開もあります。
ロキ一人の失敗と解決の話として読むか、神々の側の約束の扱いまで読むか。これは読み方の提案ですが、最初の取引と最後の結末を並べると、見えるものが増えます。
日本語で散文の『エッダ』にも進みたいなら、谷口幸男訳、伊藤尽・小澤実監修『【完全版】エッダ―古代北欧歌謡集―』が関連します。新潮社の紹介と目次では、歌謡の『エッダ』と『スノッリのエッダ』の両方を収録すると確認できます。
2026年刊行の紙書籍の識別番号、ISBNは9784103137054です。今回読んだ英訳の節番号や表現と、日本語版の並びや訳語が同じだと確認したものではないので、版を取り違えずに選んでくださいね。
読み返すときは、最初に馬の手助けを認めたところへ戻ってみてください。ロキの助言で通した条件が、どれほど大きく話を動かしたか。スレイプニルを知る入口が、八本の脚から、約束をめぐる神々のやり取りへ広がります。