トールの頭の石片は残った?フルングニル戦の散文と詩を読み分けよう

トールの頭に刺さった石片は、残ったのか、抜けたのか。アンダーソン英訳『The Younger Edda』では、物語を語る散文には「残る」という結末がある一方、続く引用詩にはグローアが取り除いたという表現があるんだ。

同じ節の中なのに、あれ、終わり方が違う? ここを急いで一つにそろえず、どちらの部分を読んでいるか分けると面白いよ。

今回は、Project Gutenberg公開のアンダーソン英訳『The Younger Edda』にある「THOR AND HRUNGNER」を読む。巨人フルングニルの名は、この英訳ではHrungnerと表記されている。物語の結末に触れるので、先に自分で読みたい人は該当節からどうぞ。

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巨人には勝つ。でも、勝ったトールがすぐ立ち上がれるわけではない

発端はオーディンと巨人の馬の競争。その後、神々のもとで酒を飲んだフルングニルが大言を吐き、トールとの決闘が決まる。

ここで巨人が構えるのは、石の盾と、武器にする石。本人の頭や心臓まで石でできていると語られるので、ずいぶん石だらけの相手なんだね。

トールの従者シャールヴィは、トールが地中から襲うと巨人に告げる。すると巨人は盾を足の下に置く。けれど、トールが投げた槌と巨人の投げた石がぶつかるのは空中だよ。

砕けた石の一部はトールの頭へ。当たった槌は巨人の頭を砕くが、倒れた巨人の足がトールの首に乗ってしまう。

勝負に勝つことと、危険から抜け出すことが、別の段階になっているんだ。強い武器で相手を倒したところで「全部解決!」と閉じると、この後の救助を読み落としてしまう。

足をどける息子と、石を緩めるグローア。助ける役割も違うよ

シャールヴィや神々が動かせなかった巨人の足をどけるのは、トールの息子マグニ。この英訳では、まだ生まれて三夜の子とされている。

三夜で、その力なの?! と驚く場面だけれど、マグニの救助が終わっても、トールの頭には石が残る。次に助けに来るのが、魔法の歌を歌うグローアなんだ。

歌によって石が緩み始めると、トールは彼女を喜ばせ、お礼をしようとして、夫オールヴァンディルの話をする。自分が彼を運んだことや、まもなく帰ってくるだろうという知らせだよ。

ところが、喜んだグローアは魔法の歌を忘れてしまう。そのため石はそれ以上緩まず、散文はトールの頭に残っていると語る。

助けようとする側も、お礼をしようとする側もいる。それなのに、嬉しい知らせが治療の続きを止めてしまう。この場面は、ただ「巨人を倒した強い神」の話として読む時とは、違う後味になるね。

最後の引用詩では「取り除いた」。散文の結末を、そのまま移さないで読もう

散文の後には、英訳でThjodolf of Hvinと記される詩人の歌が引用される。戦いの激しさが詩の言葉で語られ、終盤には、オールヴァンディルの妻が魔法の歌を歌ってトールの頭から石を取り除いた、という内容がある。

つまり、この英訳の節だけでも、読んでいる場所で記述が違う。散文は普通の文で物語を語る部分、引用詩はその後に置かれた詩句の部分だよ。

「グローアが歌を忘れ、石が残った」と紹介するなら散文の話。「石を取り除いたという表現もある」と読むなら、引用詩の箇所まで確認する。片方の文を、もう片方の結末として移さないでおこう。

これだけで、どちらが最も古い形か、食い違いがなぜ生じたかまで断定できるわけではない。今回読んだ英訳を越えて、写本や異本の関係まで確認したことにはならないからね。

ただ、「結局どっちなの」と一つを消す前に、散文と詩が並んでいることへ目を向けると、読む場所が増える。

巨人との決闘、息子の救助、歌の中断。そして、別の言い方をする引用詩。トールが勝ったところの先まで進んでみて。強さだけでは終わらない一節を、自分でも確かめられるよ。

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森の語り部のアバター 森の語り部 編集担当

北欧神話の神々、物語、世界観をたどりながら、気になったことを書き留めています。

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