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北欧神話に登場する運命の女神、ノルン。ウルズ、ヴェルザンディ、スクルドという三人の名前を、ゲームや物語で見かけたことがある人も多いのではないでしょうか。でも、三人は何をしていて、どこに住んでいるのか、くわしく知る機会は意外と少ないものです。
この記事では、スノッリ・ストゥルルソンの『散文のエッダ』の第一部「ギュルヴィたぶらかし(Gylfaginning)」の英訳(アーサー・ギルクリスト・ブロデューア訳、1916年、ウィキソース所収)をもとに、ノルンについて5つのポイントにまとめます。英文の日本語は、この記事での訳です。後半の、ノルンの物語を楽しむ方法は、この記事の提案です。
※神話の内容は、資料や翻訳によって表現が異なることがあります。この記事で紹介するのは、ブロデューア訳の「ギュルヴィたぶらかし」にもとづく一つの読み方です。運命についての占いや信仰をすすめるものではありません。
ノルンはどんな存在か
世界樹のそばの館から来る三人の乙女
「ギュルヴィたぶらかし」の第15章では、ガングレリという人物の問いに、ハールが答える形で世界樹ユグドラシルの話が語られます。そこでハールは、天にあるトネリコの木(ユグドラシル)の下、泉のそばに美しい館が立ち、その館から三人の乙女が出てくると語ります。
名前はウルズ、ヴェルザンディ、スクルド
三人の名前は、ブロデューア訳ではUrdr(ウルズ)、Verdandi(ヴェルザンディ)、Skuld(スクルド)と書かれています。ハールは、この乙女たちが人の命の長さを定めると語り、「私たちは彼女たちをノルンと呼ぶ」と続けます。
ノルンを知る5つのポイント
ここでは、ブロデューア訳の「ギュルヴィたぶらかし」第15章・第16章の内容から、ノルンについて押さえておきたい点を5つにまとめます。
1. 人の命の長さを定める
ハールの説明では、三人の乙女は人の命の期間を定める存在とされています。ノルンが「運命の女神」と紹介されることが多いのは、この役割によるものです。
2. 三人の名前に訳注がある
ブロデューア訳の訳注では、ウルズに「Past(過去)」、ヴェルザンディに「Present(現在)」、スクルドに「Future(未来)」という言葉が添えられています。三人を過去・現在・未来に結びつける説明は、この訳注からも読み取れます。
3. ノルンは三人だけではない
ハールは三人の名前を挙げたあと、「しかしノルンはたくさんいる」と語ります。生まれてくる子どもそれぞれのもとに来て、その一生を定めるノルンがいて、神々の一族、エルフの一族、ドワーフの一族のノルンがいると説明されます。
4. 良いノルンと悪いノルンがいる
ガングレリが「ノルンが人の運命を定めるなら、とても不公平な分け方をしている」と問うと、ハールは「良く、高貴な生まれのノルンは良い人生を定め、悪い運命に苦しむ人は悪いノルンに治められている」と答えます。
5. 毎日ユグドラシルに水をかける
第16章では、ウルズの泉のそばに住むノルンが、毎日泉の水と泉のまわりの泥をとって、トネリコに振りかけると語られます。その枝が枯れたり腐ったりしないようにするためだと説明されています。
5つのポイントの早見表
| ポイント | ブロデューア訳の内容 |
|---|---|
| 役割 | 人の命の期間を定める |
| 三人の名前 | ウルズ、ヴェルザンディ、スクルド(訳注は過去・現在・未来) |
| 数 | 三人のほかにも多くのノルンがいる |
| 良し悪し | 良いノルンは良い人生を、悪いノルンは悪い運命を |
| 世界樹との関係 | 毎日泉の水と泥をユグドラシルに振りかける |
表の内容は、ブロデューア訳の「ギュルヴィたぶらかし」第15章・第16章をこの記事でまとめたものです。
ウルズの泉とはどんな場所か
ユグドラシルの三本目の根の下
第15章では、ユグドラシルの三本目の根は天にあり、その根の下にとても神聖な泉があって、「ウルズの泉」と呼ばれると語られます。神々はそこで裁きの場を開くとされ、アース神族は毎日ビフレストを渡って泉へ向かうと説明されています。
泉の水はとても神聖
第16章では、泉の水はとても神聖で、泉に入るものはすべて卵の殻の内側の薄い膜のように白くなると語られます。ノルンが振りかける水と泥は、この神聖な泉のものです。
泉で養われる二羽の白鳥
ウルズの泉では二羽の鳥が養われていて、白鳥と呼ばれ、そこから白鳥という鳥の種族が生まれたとも語られています。
ユグドラシルの根と三つの泉
三本の根の説明
第15章では、ノルンの話の前に、ユグドラシルについての説明があります。ジャヴンハールは、トネリコはあらゆる木の中で最も大きく最もすぐれ、枝は世界中に広がり天の上にまで伸びていると語ります。そして、三本の根が木を支えていると説明します。
| 根 | ブロデューア訳での説明 |
|---|---|
| 一本目 | アース神族のところにある |
| 二本目 | 霜の巨人たちのところ、かつて「大きく口を開けた裂け目」があった場所にある。その下にミーミルの泉 |
| 三本目 | ニヴルヘイムの上にあり、その下にフヴェルゲルミル。ニーズヘッグが下から根をかじる |
表の内容は、ブロデューア訳の第15章をこの記事でまとめたものです。
ウルズの泉の位置の書き方
同じ第15章の少しあとでは、「トネリコの三本目の根は天にあり、その根の下にウルズの泉がある」とも語られます。根と泉の位置の説明は、章の中でも書き方が一様ではありません。神話の資料にはこうした揺れがあることも、知っておくと読みやすくなります。
蜜露と蜂の話
世界樹から落ちる露
第16章では、ユグドラシルから地上に落ちる露は、人々に「蜜露(honey-dew)」と呼ばれ、それで蜂が養われていると語られます。ノルンが泉の水を振りかける世界樹から、地上の生き物を養う露が落ちてくるという流れです。
世界樹を中心にしたつながり
ノルンが水と泥をかけて世界樹を守り、世界樹から露が落ちて蜂が育ち、ウルズの泉では白鳥が養われる。第16章の語りをたどると、ノルンの仕事が世界樹を中心とした生き物のつながりの中に置かれていることがわかります。
ノルンの物語に出てくる言葉の一覧
| 言葉 | ブロデューア訳での説明 |
|---|---|
| ノルン | 人の命の期間を定める乙女たち |
| ウルズ(Urdr) | 三人のノルンの一人。訳注は「過去」 |
| ヴェルザンディ(Verdandi) | 三人のノルンの一人。訳注は「現在」 |
| スクルド(Skuld) | 三人のノルンの一人。訳注は「未来」 |
| ウルズの泉 | ユグドラシルの三本目の根の下にある神聖な泉 |
| ユグドラシル | 世界樹とされるトネリコの木 |
| 蜜露(honey-dew) | ユグドラシルから地上に落ちる露。蜂が養われる |
カタカナの読み方は、日本でよく使われる表記を参考にした、この記事での表記です。
引用される詩も読んでみる
ノルンの生まれは別々
第15章でハールは、ノルンの生まれがさまざまであることを示すために詩を引用します。ブロデューア訳では、「ある者はアース神族の血筋、ある者はエルフの一族、ある者はドヴァリンの娘たち」という内容が語られています。
白い泥をかぶった常緑の木
第16章でも詩が引用され、雪のように白い泥を振りかけられた高い木ユグドラシルが、ウルズの泉の上にいつも緑のまま立っている、という内容が語られます。ノルンの仕事が、世界樹を守ることにつながっている様子が伝わってきます。
ガングレリとハールの問答をたどる
問いと答えの流れ
「ギュルヴィたぶらかし」は、ガングレリが問い、ハールたちが答える問答の形で進みます。ノルンにかかわる部分の流れを、この記事で表にまとめると次のようになります。
| ガングレリの問い | ハールたちの答えの内容 |
|---|---|
| 神々の主な住まいや聖地はどこか | ユグドラシルのトネリコのところで、神々は毎日そこで裁きを行う |
| ビフレストの上では火が燃えているのか | 虹の赤く見える部分は燃える火である |
| ノルンが運命を定めるなら、なぜ不公平なのか | 良いノルンは良い人生を、悪い運命の人は悪いノルンに治められている |
| トネリコについてほかに語ることは | 鷲やリス、鹿、蛇の話、そしてノルンが毎日水をかける話 |
問答の形だからこそ見えること
ノルンの不公平さについての問いは、読む人が抱きそうな疑問をガングレリが代わりに尋ねる形になっています。問答の流れを追いながら読むと、神話の説明がどんな疑問に答えようとしているのかが見えてきます。
ノルンの物語を楽しむ方法
ここからは、ブロデューア訳の「ギュルヴィたぶらかし」をもとにした、この記事の提案です。
三人の名前と訳注をメモする
ウルズ、ヴェルザンディ、スクルドの名前と、過去・現在・未来という訳注をメモしておくと、ゲームや物語でノルンが出てきたときに、元の神話とのつながりに気づきやすくなります。
世界樹の図を描いてみる
ユグドラシルの根と、その下にある泉の位置関係を図にしてみるのもおすすめです。ノルンがどこに住み、何をしているのかが、ぐっとわかりやすくなります。
「たくさんのノルン」にも目を向ける
三人の女神だけでなく、子どもが生まれるたびにやって来るノルンや、良いノルンと悪いノルンの話にも目を向けると、北欧神話の運命の考え方を広く知ることができます。
訳の違いを読み比べる
日本語訳や英訳はいくつも出ています。名前の書き方や言い回しの違いを読み比べてみると、神話の楽しみ方が広がるでしょう。
ノルンのよくある質問
ノルンは何人いる?
代表的なのはウルズ、ヴェルザンディ、スクルドの三人ですが、ハールは「ノルンはたくさんいる」とも語っています。
三人は過去・現在・未来の女神?
ブロデューア訳の訳注では、三人の名前に過去・現在・未来という言葉が添えられています。
ノルンはどこに住んでいる?
天にあるユグドラシルの根の下、ウルズの泉のそばの館から三人の乙女が出てくると語られています。
ノルンは何をしている?
人の命の期間を定めるほか、毎日泉の水と泥をユグドラシルに振りかけて、枝が枯れたり腐ったりしないようにしていると語られています。
ノルンを知って北欧神話の世界樹をもっと身近に
ノルンは、北欧神話で人の命の期間を定める乙女たちです。ブロデューア訳の「ギュルヴィたぶらかし」では、ウルズ、ヴェルザンディ、スクルドの三人がユグドラシルの下、ウルズの泉のそばの館から出てくると語られ、訳注には過去・現在・未来という言葉が添えられています。ノルンは三人だけでなく多くいて、良いノルンも悪いノルンもいるとされ、毎日泉の水と泥で世界樹を守っています。名前の意味と住む場所を知って、北欧神話の世界をもっと楽しみましょう。