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北欧神話の入門書を開くと、最初のほうに出てくるのが、女神ゲフィオン(ゲフュン)が牛に鋤を引かせて大地を切り取る話です。この話は、スノリの『散文のエッダ』の「ギュルヴィたぶらかし」の冒頭に置かれています。ゲフィオンは何をしたのか、そのあとギュルヴィ王はどうしたのか。1916年の英訳を読みながら、話の流れを確かめました。
この記事では、スノリ・ストゥルルソン『散文のエッダ』「ギュルヴィたぶらかし(Gylfaginning)」、A. G. ブロデュール英訳(1916年)の『The Prose Edda』(Arthur Gilchrist Brodeur訳、1916年)Gylfaginning 第1章~第3章、第35章をもとに、ゲフィオンの国引きについて5つのポイントで整理します。後半の、ゲフィオンの話を原典で読むときの手順は、この記事の提案です。
※この記事は、2026年10月時点でスノリ・ストゥルルソン『散文のエッダ』「ギュルヴィたぶらかし(Gylfaginning)」、A. G. ブロデュール英訳(1916年)に掲載されている内容をもとにしています。この記事は、スノリ・ストゥルルソン『散文のエッダ』のA. G. ブロデュールによる英訳(1916年、パブリックドメイン)を、日本語で要約したものです。神の名前の日本語表記は本によって違います。訳や解釈も一つではないので、気になる場面は複数の訳で読み比べてみてください。
ゲフィオンとは?
名前
英訳では「Gefjun」と書かれています。日本語では「ゲフィオン」「ゲフュン」などと書かれます。
アース神族の女性
「ギュルヴィたぶらかし」の第1章では、ゲフィオンはアース神族の血筋の女性だと書かれています。
女神の一人として
第35章の女神の一覧では、4番目にゲフィオンが挙げられ、乙女であり、乙女のまま亡くなった人たちが彼女に仕えると書かれています。
ゲフィオン 5つのポイント
1. 旅の女の姿で
王を楽しませたお礼に土地をもらいます。
2. 一昼夜の鋤
4頭の牛で耕せる広さでした。
3. 大地を海へ
牛が土地を西の海へ引いていきます。
4. セルンドと名づける
切り取った土地に名前を付けます。
5. ギュルヴィの旅へ
王はアースガルズへ向かいます。
5つのポイント早見表
| ポイント | スノリ・ストゥルルソン『散文のエッダ』「ギュルヴィたぶらかし(Gylfaginning)」、A. G. ブロデュール英訳(1916年)の案内 |
|---|---|
| 旅の女の姿で | 始まり |
| 一昼夜の鋤 | 約束 |
| 大地を海へ | 国引き |
| セルンドと名づける | 名前 |
| ギュルヴィの旅へ | その後 |
第1章:ギュルヴィ王の約束
王
ギュルヴィ王は、今スウェーデンと呼ばれる土地を治めていた王だと書かれています。
旅の女
王は、自分を楽しませてくれた旅の女に、お礼として国の中の耕地を与えました。
広さ
その広さは、4頭の牛が一日と一夜で耕せるだけ、という約束でした。
正体
ところがこの女はアース神族の血筋で、名前をゲフィオンといいました。
牛と鋤で大地を引く
4頭の牛
ゲフィオンは北のヨトゥンヘイム(巨人の国)から4頭の牛を連れてきて、鋤につなぎました。
深く広く
鋤はとても広く深く切り込んだので、大地がゆるみました。
海へ
牛たちはその土地を海へ、西のほうへ引いていき、ある海峡で止まりました。
セルンド
ゲフィオンはそこに土地を置き、「セルンド(Selund)」と名づけたと書かれています。
残った水
土地が切り取られた場所はそれから水になり、スウェーデンで「ローグ(Lögr)」と呼ばれていると書かれています。
湖と岬
その湖の入り江は、セルンドの岬と同じ形で並んでいる、と結ばれています。
古い詩人ブラギの詩
引用
スノリはこの話のあとに、古い詩人ブラギの詩を引いています。
内容
英訳では、ゲフィオンがギュルヴィから土地を引き取り、デンマークを増やしたこと、走る牛たちから汗が立ちのぼったことが詠まれています。
牛の姿
牛たちは「八つの目」と「四つの頭」を持ち、耕しながら土地を運んだと詠まれています。4頭の牛なので、目が八つ、頭が四つという数え方です。
散文と詩
散文の説明と、その証拠のように引かれる詩を分けて読むと、スノリの書き方がよくわかります。
第2章:ギュルヴィ、アースガルズへ
王の悩み
ギュルヴィは賢く、魔術にも通じた王でした。アース神族の人々があまりに賢く、何でも思いどおりになることに悩んでいたと書かれています。
老人の姿で
王は老人の姿に身を変えて、ひそかにアースガルズへ向かいました。
見抜かれる
しかしアース神族は先を見通す力を持っていて、王が着く前にその旅を見抜き、目くらましを用意していたとされています。
盾の屋根
町に入ると、てっぺんが見えないほど高い館があり、屋根は金の盾で葺かれていました。
ガングレリ
名を聞かれた王は「ガングレリ」と名乗りました。
三つの高座と三人の王
三つの席
館の中には、上下に重なった三つの高座があり、それぞれに一人ずつ座っていました。
名前
一番下の席の王はハール(Hárr)、次がヤヴンハール(Jafnhárr、英訳ではJanhárr)、一番上がスリジ(Thridi)だと案内されます。
問答の始まり
ハールは、ガングレリがここより賢くなければ無事には帰れないと告げ、ガングレリの問いかけが始まります。
最初の問い
第3章で、ガングレリは「神々の中で一番えらい、または一番古い神は誰か」と尋ねます。
第35章:女神たちの一覧のなかで
問い
第35章では、ガングレリが「アース神族の女神(アーシュニュル)は誰か」と尋ね、ハールが順に答えます。
1番目
フリッグが一番えらい女神で、フェンサリルという館を持つとされています。
2番目と3番目
2番目はソックヴァベックに住むサーガ、3番目は最もすぐれた医者とされる女神です(英訳では「Fir」と書かれています)。
4番目
4番目がゲフィオンです。乙女であり、乙女のまま亡くなった人たちが仕えると書かれています。
5番目
5番目のフルラも乙女で、髪をほどき、頭に金の帯をつけ、フリッグの箱を持つと紹介されています。
二つの姿
第1章では王から土地を引き取る旅の女として、第35章では女神の一覧の一人として登場します。同じ名前でも、場面ごとに書かれ方が違う点に注目してみてください。
登場する名前のまとめ
表記
日本語の表記は本によって違うので、英訳の綴りも一緒に覚えておくと調べやすくなります。
| 名前(英訳) | どんな存在か |
|---|---|
| Gefjun | アース神族の血筋の女性。牛と鋤で土地を引く |
| Gylfi | 今のスウェーデンの地を治めた王 |
| Gangleri | 老人の姿のギュルヴィが名乗った名前 |
| Hárr | 三つの高座の一番下に座る王 |
| Jafnhárr | 二番目の高座に座る |
| Thridi | 一番上の高座に座る |
| Selund | ゲフィオンが切り取った土地に付けた名前 |
| Lögr | 土地を切り取られたあとにできた水 |
「たぶらかし」という題名
題名
「ギュルヴィたぶらかし(Gylfaginning)」は、英訳では「THE BEGUILING OF GYLFI」と書かれています。
冒頭との関係
ゲフィオンに土地を引き取られた王が、今度はアースガルズで目くらましに迎えられる、という流れで話が始まります。
このあと
ここから、世界の始まりや神々の話が、問いと答えの形で語られていきます。
読む楽しみ
ゲフィオンの話は短いので、北欧神話を原典で読み始めるときの最初の一歩にもぴったりです。
読むときに気をつけたいこと
英訳の綴り
1916年の英訳には、今の本と綴りが違う名前があります。たとえば二番目の王の名は、英訳では「Janhárr」と書かれています。
地名
「セルンド」や「ローグ」が今のどこにあたるかは、注釈書や研究書で確かめると安心です。この記事では、英訳に書かれた名前のまま紹介しています。
詩の言い回し
ブラギの詩は、言いかえ(ケニング)を多く使った古い詩です。訳によって言葉がかなり違うので、意味は散文の説明と合わせて読みましょう。
日本の国引き神話と比べると?
似ている点
土地を引っぱって運ぶ話という点で、日本の『出雲国風土記』の国引きの話を思い出す人もいるかもしれません。
分けて読む
ただし、二つの話がつながっていると書かれているわけではありません。比べるときは、それぞれの原典の文脈で読むことが大切です。
ゲフィオンの話を原典で読むときの手順
ここからは、スノリ・ストゥルルソン『散文のエッダ』「ギュルヴィたぶらかし(Gylfaginning)」、A. G. ブロデュール英訳(1916年)の案内をもとにした、この記事の提案です。
ここで挙げるのは、英訳をもとにした読み方の例です。
冒頭を読む
「ギュルヴィたぶらかし」の第1章を読みます。
詩を分ける
散文の説明と、ブラギの詩を分けて読みます。
次の章へ
第2章でギュルヴィがどうしたかを続けて読みます。
女神の一覧
第35章でゲフィオンの別の紹介も確かめます。
よくある質問
ゲフィオンの話はどこに書かれている?
スノリの『散文のエッダ』の「ギュルヴィたぶらかし」第1章です。
牛は何頭?
4頭です。北のヨトゥンヘイムから連れてきたと書かれています。
約束の広さは?
4頭の牛が一日と一夜で耕せるだけの土地です。
三人の王の名前は?
下からハール、ヤヴンハール、スリジです。
切り取った土地の名前は?
英訳では「セルンド(Selund)」と書かれています。
ゲフィオンはどんな女神?
第35章では、乙女であり、乙女のまま亡くなった人たちが仕える女神だと紹介されています。
ギュルヴィはこのあとどうした?
老人の姿でアースガルズへ行き、ガングレリと名乗って問答を始めます。
ゲフィオンの国引きは、ギュルヴィの旅の入り口
『散文のエッダ』の英訳によると、ゲフィオンは4頭の牛と鋤で大地を切り取り、西の海へ運んでセルンドと名づけました。この話のあと、ギュルヴィ王は老人の姿でアースガルズへ向かい、三人の王との問答が始まります。まずは「ギュルヴィたぶらかし」の第1章から、続けて読んでみてください。