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好きになった相手のところへ、自分の代わりに使者を送る。
北欧神話のフレイとスキールニルの話をここまで聞いたら、恋を取り持つ冒険なのかな、と思うかもしれません。
でも、その使者が持っていくものを見てみて。
炎を越える馬。それから、戦う力を持つ剣。さらに相手との対話では、贈り物を断られたあと、言葉が脅しと呪いへ変わっていくんです。
あ、気の利いた伝言を届けるだけの話ではないんだね。
今回は『エッダ』に収められる「スキールニルの旅」を、ヘンリー・アダムズ・ベローズによる一九二三年の公開英訳で読みます。フレイのための旅という入口から、使者と相手の会話、帰ってきたあとの待ち時間まで、順番に見ていこう。
神話の内容の説明を含むため、ここから先には物語の結末に触れます。英訳本文と訳者の注を分け、人物の本心や省かれた出来事を、こちらで会話に足すことはしません。日本語の既刊訳を読んだ体験談や、その訳文を写した記事でもありません。
フレイが渡す馬と剣。まず、誰が相手の家へ行くのかを合わせよう
英訳の冒頭では、フレイが巨人の国を眺め、ギュミルの家から出る女性を見て、強く思いを寄せる状況が語られます。そのフレイへ話しかけるのが、使者となるスキールニルです。
家へ着いても、すぐに二人の対話が始まるわけではありません。門の前には犬がいて、スキールニルは牧人へ尋ねます。家の内側ではゲルズが物音を聞き、侍女の返事を受けて使者を招き入れる。外と内の人物の声を経て、やっと相手へ言葉が届く流れです。
この招き入れる場面も、フレイからの申し出を受けたことに置き換えないでね。来訪者と話すことと、その人が持ってきた申し出にどう返事をするかは、ここでは順番の違う出来事です。そのあとに続く拒否まで読むと、場面がつながります。
最初に分けておきたいのは、思いを抱く人と、相手の前で話す人。
この二つの役割が、同じ人物ではないんだね。
スキールニルは、暗がりや炎を越える馬と、巨人に対して戦う剣を求めます。フレイはそれを渡すと答えます。だから、相手の家へ向かう場面で剣を持っているのは使者の側です。
「フレイの剣」という呼び名だけを追っていると、フレイ本人がすべての場面で振るっているように読んでしまうかもしれません。持ち主の名と、その場面で手にしている人物を分けてみよう。
英訳の第八・九節では、剣が自ら戦う性質と、それを持つ者への条件が表現されています。ただの荷物として渡されるものではなく、旅の危険に関わる道具として出てくるところが気になるね。
ここでは、後の神話の戦いまで全部まとめず、この詩で剣がどう渡るかを先に追います。別の物語でその剣の行方が説明されていても、いま読んでいる詩がどこまで語るかとは分けておこう。
登場人物を控えるなら、最初はこの程度でも大丈夫です。
| 人物 | この旅での役割 |
|---|---|
| フレイ | 相手に思いを寄せ、馬と剣を渡す |
| スキールニル | 相手の家へ向かい、対話する |
| ゲルズ | 訪ねてきた使者に返事をする |
ゲルズは今回の英訳でGerthと表記されています。訳によって名前の綴りや日本語表記が違う場合は、役割も合わせて読んでね。新しい名前が出たと思ったら、同じ人物の表記違いかどうかを確認できます。
日本語で読む本としては、新潮社の『完全版 エッダ―古代北欧歌謡集―』の目次に「スキールニルの旅」があります。この記事で読んだ英訳と、日本語版の訳文や注の細部がすべて同じとするものではありません。まず、収録された詩を探す候補として紹介します。
黄金のリンゴも指輪も断られる。贈り物の豪華さだけで続きを決めないでね
相手の家へ来たスキールニルは、ゲルズとの対話へ進みます。ここで提示されるのは、十一個の黄金のリンゴです。
物語にそんな贈り物が出てきたら、これで話がまとまるのかな、と続きを待ちたくなるよね。
でも、ゲルズは受け取りません。
次は指輪。英訳では、九夜ごとに同じ重さの輪が八つ生じる性質を持つものとして説明されます。ところが、これも断られます。ゲルズは父の家に金が不足しているわけではないと返すんです。
おお、贈る側が価値を並べても、それが相手の返事を決めるとは限らないんだね。
この場面は、何を差し出したかだけでなく、それにどんな返事が返ってきたかを続けて読むと、会話の進み方が見えてきます。
まずリンゴ、次に指輪という順を残し、その横へそれぞれの拒否を書く。そうすると、宝物の一覧として読んでいたときには見えにくかった、対話の行き止まりが分かるよ。
ここで、相手の態度を、実は喜んでいるのに隠している、とこちらで補わないようにしたいです。読めるのは、その場面で示される言葉。物語にある拒否を、気まぐれな駆け引きに置き換える必要はありません。
また、指輪の名前や以前の持ち主を調べると、訳者の注が別の神話へつないでくれます。けれども、注で説明されている情報を、対話の中でゲルズが実際に語った内容へ移さないでおこう。詩の声と、後から読む解説の声は別です。
最初に読むときは、宝物の来歴を全部たどらなくても大丈夫。贈り物を示す、断る、別の贈り物を示す、また断る。この往復だけでも、次に使者がどう出るかを待つ流れができます。
日本語の収録本を開いたら、この贈り物の場面を探し、英訳で気になったところと比べて読む方法もあります。単語を同じ日本語に直して答え合わせするというより、誰の発言がどこから始まり、どんな返事を受けるかを合わせてみてね。
剣の脅しから呪いへ。恋の成就という結末だけでは読めないところ
贈り物を断られたあと、スキールニルは剣を示してゲルズを脅します。彼女がそこで従うわけではなく、対話はさらに続きます。
その先にあるのが、苦しみや孤立を告げ、神々の怒りやルーンにも触れる呪いの言葉です。使者の口調が、贈り物を差し出す話から大きく変わっていくんだね。
ここを短いあらすじの中で全部省き、熱心に頼んだから会う約束ができたとまとめると、対話の様子が変わってしまいます。断られたあと、どういう言葉が重ねられたのかを残して読もう。
呪いの細部には、訳者が語の意味や詩節の区切りを問題にしている箇所もあります。だから、長い言葉を一つの明確な条件表に書き換え、神話の中の全ルールが分かったとする必要はありません。どこが読みにくいとされているかも、注から受け取れます。
特に気になるのは、使者が相手の未来を、自分の言葉で狭めていくように読めるところ。これはこの記事での読み方です。実際に起きた被害の報告や、全時代の北欧社会が同じ考えだったという判断ではありません。
相手の言葉を聞き、贈り物を変えて、それでも断られる。そこから剣と呪いへ進む。この順序を読むと、単に勇気ある使者が旅を成功させた、という一面だけでは収まらなくなります。
もし読みながら、ここは嫌だな、と感じたら、その箇所をそのまま残していいよ。最後に約束ができたから、途中の拒否や脅しまで気持ちよく読み替えなければいけない、ということではありません。
この物語を、現実に相手を説得する方法として使う提案でもありません。神話の対話を読み、誰がどんな立場で言葉を出し、その後に何が変わったかを見る話です。現実の人の拒否を、さらに圧力を加える入口として扱うものではないよ。
関連本の『完全版 エッダ』は、歌謡の『エッダ』と『スノッリのエッダ』をともに収録すると出版社が案内しています。ただ、今回の脅しの全語句をどう訳し、どの注を付けているかまでは、こちらで日本語版本文を確認していません。訳の細部を比べたい場合は、その収録箇所を実際に開いて読んでね。
九夜後の約束なのに、最後は一夜、二夜、三夜。待つ人の時間へ戻る
やがてゲルズは、九夜後にバリ(Barri)でフレイと会う約束をします。スキールニルは帰り、その内容をフレイへ伝えます。
ここで、冒険が終わったように感じるかもしれません。
でも、詩の最後の声は、まだ相手に会っていないフレイなんです。
彼は、帰ってきた使者へすぐ報告を求めます。そして九夜後の話を聞いたあとは、一夜でも長く、二夜はもっと長いというように、待つ時間を語るところで詩が閉じます。
ああ、同じ夜の数でも、待つ人の側へ戻ると違って見えるんだね。
使者が移動し、相手と話していた時間から、家で待つ人物の時間へ、読む視点が戻ってきます。
ここでの「九夜」と、さっき指輪について語られた「九夜」は、同じ役割の数字ではありません。片方は会うまでの約束、もう片方は指輪の性質を示す周期です。数字だけを抜き出すと、別の場面が一つになってしまいます。
最後に三夜までが語られることも、会う日が九夜後から三夜後へ変更されたという知らせではありません。約束の説明と、待ち遠しさを表す言葉を分けて読んでみよう。
読み返すときは、三つの位置を並べると分かりやすいです。
| 場面 | 誰が何を伝えるか |
|---|---|
| 相手の家 | ゲルズが会う場所と九夜後の約束を示す |
| 使者の帰還 | スキールニルがその約束をフレイへ伝える |
| 詩の最後 | フレイが待つ時間の長さを語る |
同じ内容が報告で繰り返される部分も、ただの重複と飛ばさずに見てみて。どの人物がどの場所で聞くかが変わると、そのあとの反応につながります。報告を受けたフレイの声が最後に来るからこそ、待っていた人の存在がもう一度前へ出るんだね。
また、この英訳の詩が描く範囲では、九夜後の実際の対面場面までは進みません。会う約束が語られたことと、その場面を読んだことを同じにしないでおこう。約束のあとを、自分で祝いの宴や会話にして足す必要はありません。
一度読んだあとに戻るなら、剣を求める場面と、この最後の声を比べるのも一つ。旅を動かす準備から始まり、最後は待つ長さへ戻る。行き来の大きさと、一夜の長さが並ぶところを味わえます。
あらすじ、発言、訳者の注。次に開く一冊でも分けて読んでみよう
「スキールニルの旅」には、人物が口にする詩の言葉と、場面をつなぐ散文があります。公開英訳には、さらに訳者の導入と注も付いています。
最初に戸惑ったら、全部を同じ人が語る説明として読まず、今どの種類の文章にいるかを見てみてね。場面が変わったのか、人物が返事をしたのか、訳者が別の資料を説明しているのか。その区別だけでも、詩の声が追いやすくなります。
また、今回使ったベローズ英訳には、写本の違い、編集者による補い、意味の不確かな語についての注があります。その注を読むと、整った一つの文章として見えていても、どの語をどう読むかが検討されていると分かります。
とはいえ、その学説や推定を全部暗記してから物語を楽しむ必要はないよ。最初は、フレイ、使者、ゲルズの発言を分ける。そのあと、特に気になった一節の注を見る。読む場所を少しずつ広げる方法で大丈夫です。
日本語で読み進める候補の『完全版 エッダ―古代北欧歌謡集―』は、谷口幸男訳、伊藤尽・小澤実監修の新潮社刊です。二〇二六年刊の版で、出版社の目次には今回の詩と、第二部の『スノッリのエッダ』が並んでいます。
本文全体を今回読んだという紹介ではないので、英訳の詩節番号や注の並びが、そのまま日本語版でも一致するとは約束しません。買う前には目次や試し読みを見て、詩だけを読むのか、散文の『エッダ』も読みたいのかを考えてみてください。
購入時は、完全版の表示とISBN9784103137054を合わせよう。旧版、紙の本、電子版、中古などは、注文する商品ごとに確認してね。価格や送料、届く時期も、その時点の販売ページの案内を見てください。
読み終わったら、使者が持っていた剣を、もう一度思い出してみよう。
出発のための道具だったものが、相手との対話では脅しにも使われる。物の名前だけでなく、使う場面が変わるところに、この詩の緊張があります。
そして最後には、約束を聞いてもまだ待ちきれないフレイの声。恋の冒険という短い説明から入っても、その途中の拒否や言葉の強さ、終わりに残る時間まで読めるんだね。次は、その中で一番引っかかった返事へ戻ってみてください。
出典:物語の筋、各人物の発言、詩節と訳者の注はベローズ訳 The Poetic Edda 公開本文のSkirnismolを参照しました。日本語版の書誌と収録目次は新潮社の完全版紹介、実在商品はbookfanの商品ページを確認。二〇二六年十月十七日確認。解釈や読み返し方はこの記事での提案で、現代日本語訳の訳文を転載したものではありません。