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北欧神話の始まりを読んでいたら、一頭の牛が登場。しかも、霜に覆われた石をなめている。
牛? ここで?
神々の戦いへ進む前に、この牛を少し追いかけてみて。アウズンブラは乳で巨人ユミルを養い、自分は塩を含んだ石をなめます。そして、その石から神々の祖先にあたるブーリが姿を現すんです。
今回はスノッリの『ギュルヴィたぶらかし』を収めた、R・B・アンダーソンの古い英訳『The Younger Edda』第6節を中心に読みます。日本語の呼び名はアウズンブラ、ユミル、ブーリでそろえ、英訳のAudhumbla、Ymer、Bureと対応させます。
ユミルを養う牛は、自分では石をなめている
『ギュルヴィたぶらかし』は、問いかけと返答で世界や神々の話が進む作品です。
公開英訳の第5〜6節では、冷気と熱が出会い、霜が解けた滴からユミルが生じる話に続いて、牛アウズンブラが語られます。その乳房から流れる四筋の乳が、ユミルの食べ物になる。
ここで語り手への質問も、ちゃんと一歩進むんです。では、牛の食べ物は?
答えは、霜に覆われた塩を含む石。ユミルへ乳を与える一方で、牛自身は石をなめているわけです。
ユミルと牛を「初めにいた生き物」とだけ覚えると、この動きが抜けてしまいます。誰が誰を養い、誰が何を口にしているのか。矢印を付けてみると、白い景色の中で二つの命が動き始めますね。
髪、頭、全身。ブーリは三日かけて現れる
石をなめ続けると、最初の日の夕方には人の髪が、二日目には頭が、三日目には全身が現れます。それがブーリです。
おおっ、一度になんでも完成する話ではないんですね。髪だけ見えた日があり、次に頭が見える。世界の始まりの話なのに、三日間の「まだ全部は見えない」が入っています。
この順番を残すと、牛がただ背景に立っていたわけではないと分かります。乳を出す場面と、石から人が現れる場面。その両方にアウズンブラがいる。
続く系譜では、ブーリの息子がボル。ボルとベストラの三人の息子が、オーディン、ヴィリ、ヴェーです。ブーリをオーディンの父と一代飛ばして覚えないこと。間にボルがいます。
物語の流れを日本語で追いたくなったら、谷口幸男訳『【完全版】エッダ─古代北欧歌謡集─』も候補になります。新潮社の目次には、詩を集めた第一部と、『ギュルヴィたぶらかし』を含む第二部「スノッリのエッダ」が載っています。牛の場面から続きを探すなら、まず第二部が目印になります。
同名の本を探す際は、ISBNという本の識別番号「9784103137054」で合わせてください。
次にアウズンブラの名を見つけたら、乳だけで通り過ぎず、石をなめる三日間まで。あの髪の先に、オーディンへつながる系譜が始まっています。